材料が装置を定義する——材料の役割の変化

チップの微細化が進むにつれ、装置の限界は構造よりも材料に依存するようになっています。材料の役割は「設計を支える存在」から「性能の上限を決める存在」へ——その転換が、いま静かに進んでいます。
半導体装置における材料の役割は、段階的に進化してきました。具体的に説明します。
——【第一段階:構造が主役】
当初、装置性能の向上は主に構造設計によって実現されてきました。既存材料の能力を前提に、光学配置や機械構造を改良することで性能を引き上げる。この段階では、材料はあくまで設計を支える存在でした。
——【第二段階:材料が鍵になる(現在)】
構造の最適化が限界に近づくと、状況は変わります。焦点は材料へ移ります。純度の向上、安定性の改善、内部構造や界面の最適化——材料そのものが性能を左右する時代です。現在の半導体装置開発は、この段階にあります。
——【第三段階:材料が設計を牽引する】
この動きはすでに始まっています。極端紫外線リソグラフィ(EUV)がその例です。
EUVは、波長13.5 nm(ナノメートル)の光を使って回路を描く技術です。この波長が選ばれた理由は、単純な技術的要求だけではありません。Mo(モリブデン)とSi(シリコン)を交互に積み重ねた多層反射鏡が、ちょうどこの波長の光を効率よく反射できる——それが、13.5 nmという数字を決めた大きな理由のひとつです。「この材料で実現できる波長」が、技術的方向性を決めたのです。
では将来、さらに短い波長へ進もうとすれば何が必要か。答えは、新しい「多層反射鏡材料」の開発です。どれだけ装置の設計を工夫しても、反射鏡材料がその波長に対応できなければ前に進めません。材料が実現して初めて、装置の設計が動き出す。ここでは材料が、設計の出発点になっています。
——【第四段階:材料が機能そのものになる】
材料が設計を牽引(けんいん)するだけでなく、装置の中核機能を直接担う段階も見えてきました。
並列電子ビーム装置を例に考えます。この装置は、多数の電子ビームを同時に使って回路パターンを描くものです。従来は、細かな孔(あな)を並べたアレイ(微小孔アレイ)にビームを通すことで、1本の電子ビームを多数に分割してきました。しかしこの方法では、電子の多くが孔の縁に当たって失われてしまい、効率が上がりません。構造も複雑になります。
そこで別の発想が生まれています。結晶薄膜の内部に規則的な構造を作り込み、電子がその薄膜を通過するだけで自動的に方向を変え、一点に集まるようにする方法です。特別な光学部品を使うのではなく、材料そのもので電子ビームを制御する。材料が「レンズ」の役割を果たすイメージです。
Lam ResearchとNIMSの共同研究では、プロジェクト責任者の達博がこの結晶薄膜による電子ビーム集束の研究を進めています(図)。この材料モジュールが安定して量産できるようになれば、装置の構造はよりシンプルになり、制御の精度も上がります。
構造主導から材料主導へ。そして材料が設計を牽引し、機能そのものを担う段階へ。装置進化の軸は、確実に移っています。
材料がシステムの一部として組み込まれると、材料のわずかな改良が量産ラインを通じて何度も積み重なり、大きな差になって現れます。将来の装置性能は、構造設計の巧みさだけでなく、材料がどこまで実現できるかによって決まる。そういう時代に入っています。
達博 (Da Bo) 博士…物質・材料研究機構 (NIMS) 主任研究員、Lam Research-NIMS 共同研究プロジェクト責任者。半導体装置用高性能材料の研究に長年従事。日立財団および米国Lam Researchの支援のもと、NIMSにおいて材料開発・部材作製から装置レベルの検証までを貫く研究開発体制を構築。本連載は、同チームがLam Research-NIMS共同研究の視点から執筆する。