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グローカル経済
2026年3月

トランジスタからキーマテリアルへ

トランジスタからキーマテリアルへ

半導体の製造技術は、今や原子レベルの世界に突入しています。それに伴い、開発の焦点も変わってきました。以前はトランジスタの設計が主役でしたが、現在は「重要材料(キーマテリアル)」が主役です。これは製造装置の中で高温・高真空・強い電場にさらされながらも、長期間安定して働く素材のことです。この材料の良し悪しが、半導体の性能を大きく左右するようになっています。

——針先に手を入れる

原子レベルの製造技術を生かすには、まず材料の「どこが性能の決め手か」を見つける必要があります。実は、性能を左右するのは、ごく少数の原子が特別な役割を担う「キーサイト(重要部位)」と呼ばれる場所です。そのキーサイトを原子レベルで改良し、その効果を装置全体、さらには生産ライン全体の性能アップにつなげる。そんな発想が今、求められています。

その代表例が、検査・計測装置に使われる「冷陰極電界放出電子源」です。半導体工場では、ウェハー上の微細な線幅や欠陥を見つけるために電子ビームを使います。その性能は「電子源」、いわば電球のような部品の品質で決まります。

「冷陰极電界放出電子源」とは、単結晶でできた極細の針先に強い電場をかけ、先端から電子を引き出す仕組みです。明るく安定した電子ビームが得られるため、現在最も優れた技術とされています。

この分野では1970年代から志水隆一氏が先駆的な研究を行い、六ホウ化ランタン(LaB₆)などの材料で「冷陰極電界放出陰極」の開発に挑んできました。ここで重要なのは、電子ビームの明るさや安定性、寿命は、材料全体の平均的な性質ではなく、針先のわずか数個から数十個の原子配列で決まるということです。ほんの少しの原子の並び方の違いが、画像の鮮明さや計測精度に大きな差を生みます。

近年、原子レベル製造技術により、この針先を直接加工できるようになってきました。達博研究グループが牽引するLam Research-NIMS共同研究プロジェクトで、金属ホウ化物電子源を担当する張泰強博士は、原子を操作するツールを使った新しい手法を開発しています。具体的には、針先の表面を「作業台」とみなし、先端でランタン原子を一つずつ動かして積み上げ、設計どおりの形と大きさの原子の塊(クラスター)を組み立てる手法です。

——電子源から歩留まりへ

電子源が安定し、明るくノイズの少ないビームが出せれば、検査・計測装置全体の性能が上がります。先端プロセスでは欠陥がどんどん小さく見えにくくなっていますが、それらを早く正確に見つければ、試行錯誤が減り、量産できる水準まで歩留まりを上げられます。少数の原子を整えることが、装置の性能向上、製造プロセスの改善、そして産業全体の進歩へとつながっていきます。冷陰極電界放出電子源は、原子レベル製造の価値をはっきり示す好例なのです。

著者紹介

達博 (Da Bo) 博士 物質・材料研究機構 (NIMS) 主任研究員、Lam Research-NIMS 共同研究プロジェクト責任者。半導体装置用高性能材料の研究に長年従事。日立財団および米国 Lam Research の支援のもと、NIMS において材料开发・部材作製から装置レベルの検証までを貫く研究開発体制を構築。本連載は、同チームが Lam Research-NIMS 共同研究の視点から執筆。