「装置の材料」が微細化の鍵を握る時代

生成AIの爆発的な普及を背景に、世界の半導体市場は2024年に6000億ド ルを突破しました。需要拡大とともに微細化競争も加速し、各社は「ナノメートルの 先」を見据えた技術開発にしのぎを削っています。こうした中、米国の半導体製造装 置メーカー大手、Lam Research(ラムリサーチ)が、日本の物質・材料研究機構 (NIMS)と「半導体装置用の高性能材料」で共同研究を始め、注目を集めています。
筆者は、Lam Research-NIMS共同 研究プロジェクト責任者を務めています。 その立場から、横浜を拠点とするTNP パートナーズの依頼を受け、本連載を執 筆しました。本稿では、こうした取り組みを 踏まえ、これからの時代において、なぜ改 めて「装置材料」が重要なのか、その背 景と意義を読み解いていきたいと思いま す。
——微細化は「原子数個分」の世界に
半導体産業は数十年にわたり、回路を 小さくする「微細化」を進めてきました。 現在は3ナノメートル(nm、10億分の1メートル)、2 ナノメートルの量産が始まり、さらにその先へと 向かっています。次に目指すのは「オン グストローム(Å)」級。ナノメートルの10 分の1、原子数個分という極小の世界で す。
ここまで小さくなると、課題の性質が変 わります。研究室で新しい構造を作るこ とより、「量産ラインで安定して再現でき るか」が問われるようになるのです。
露光、エッチング、成膜、検査といった 半導体製造装置は微細加工の基盤です が、寸法が原子数個分まで縮むと、装置 の機械精度を高めるだけでは限界が見 えてきます。
——突破の鍵は「装置材料」
この段階で重要になるのが、装置内部 で過酷な環境にさらされる「キーマテリ アル(重要材料)」です。露光装置の多 層反射ミラーや、エッチング装置内壁の コーティング材などがこれにあたります。
材料がわずかでも劣化すれば、装置 性能は維持できません。微細化の最初 の壁は「材料の性能上限」であることが 多いのです。だからこそ先端装置メー カーは、装置設計だけでなく材料研究を 重視し始めています。
では、材料の壁をどう超えるのか。注目 されているのが「原子レベル製造」です。 原子1個ずつの除去や追加を制御し、理 想的な配列に近づける技術ですが、現状 では加工面積が小さく処理速度も遅い ため、ウェハー(半導体の基板)製造に 直接使うのは現実的ではありません。
——材料→装置→量産プロセス
そこで、Lam ResearchとNIMSが選 んだのは、原子レベル製造を量産に直接 使うのではなく、「材料の段階で原子レベ ルの最適化を行う」というアプローチです。
改良した材料を既存装置に組み込め ば、装置性能が向上します。その効果は 量産ラインを通じて大規模に増幅されま す。「材料→装置→量産プロセス」へと 連鎖的に広がる仕組みです。
オングストローム級の製造が実現する かどうかは、量産ラインがその構造を長期 間安定して再現できるかにかかっていま す。その成否を左右するのが、半導体装 置とキーマテリアルの性能限界なのです。
次回以降では、具体的な材料や事例 を紹介しながら、原子レベル製造がどの ように製造プロセスを進化させていくの かを解説します。
(この連載は横浜のTNPパートナーズが協 力しています)
達博(Da Bo)博士…物質・材料 研究機構(NIMS)主任研究員、Lam Research –NIMS 共同研究プロジェクト責任者。半導体 装置用高性能材料の研究に長年従事。日立財 団および米国Lam Researchの支援のもと、 NIMSにおいて材料開発・部材作製から装置レ ベルの検証までを貫く研究開発体制を構築。 本連載は、同チームがLam Research–NIMS 共同研究の視点から執筆する。